貸付事業用の小規模宅地特例に関する税制改革
2018/12/10 税務
師走を迎え、なにかと気ぜわしい毎日ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。
今回のテーマは、貸付事業用の小規模宅地特例に関する税制改正です。
高齢化社会を迎え相続に備える動きが顕著となり、相続対策で賃貸物件(マンション・アポート)を建築・購入したという話を、身近でもよく聞くようになったのではないでしょうか。
賃貸物件にすると、相続又は遺贈(以後、「相続等」)の際、貸付事業用の小規模宅地特例を使えるので、相続税を大きく減額させる効果があります。
しかし、近年、この効果に目を付けて、相続税を減額させる目的だけで賃貸物件を建築・購入する方がかなり増えてしまいました。
そこで、平成30年度税制改正で、この特例の条件が厳しくなりました。
具体的には、平成30年4月1日以後に相続等により取得した賃貸物件で、相続等の開始前3年以内に新規オープンした賃貸物件(以後、「3年以内貸付宅地等」)には、この特例が使えなくなりました。
ここで、まず、前提としての賃貸物件の相続税減額効果について、説明します。
細かい話は省略すると、相続税は不動産などの財産評価額に税率を掛けて計算されます。
ですので、財産評価額が低くなれば、相続税は減額されます。
以下で賃貸物件の財産評価額(相続税減額効果)に関して、通常の賃貸物件の評価額と貸付事業用の小規模宅地特例に分けて説明します。
<通常の賃貸物件の評価額>
(土地)
所有する土地の上に建物を建築し、他人に貸し付けている場合、賃貸物件の土地は
通常の土地評価額×(1-借地権割合×借家権割合(30%)×賃貸割合)
で計算されます。
上記計算式のかっこ内のパーセンテージが低ければ、土地の評価額は少なくなります。借地権割合については土地に応じて30~90%まで決まっていますので、入居率を示す賃貸割合が高ければ、かっこ内のパーセンテージが低くなります。
このように、自家用の土地の評価と比べ、かっこ内のパーセンテージの分だけ賃貸物件の土地の評価額は減額されます。
(建物)
賃貸物件の建物は、
固定資産税評価額-固定資産税評価額×借家権割合(30%)×賃貸割合
で計算されますので、自家用の建物の評価と比べ、固定資産税評価額×借家権割合(30%)×賃貸割合の分だけ賃貸物件の建物の評価額が減額されます。
<貸付事業用の小規模宅地特例>
上記土地の評価に加えて、貸付事業用の小規模宅地特例を利用すると、賃貸物件の土地の評価額はさらに減額されます。
貸付事業用の小規模宅地特例とは、賃貸物件の土地は、200㎡までは50%減で評価できるというものです。
ですので、この特例が利用できないと、賃貸物件の土地評価額の減額幅は小さいものとなり、相続税減額効果が十分に得られない結果となってしまいます。
このように、平成30年度税制改正では、貸付事業用の小規模宅地特例の利用に一定の制限をかけて、相続税の減額に歯止めをかけようとしました。
ただし、平成30年度税制改正前から貸付事業を行っていた方を制限するのは酷なので、平成30年3月31日までの賃貸物件については、3年以内貸付宅地等に該当しないものとする経過措置が設けられています。
また、従来から貸付事業に本腰をいれているような方を制限するのは酷なので、相続開始の日まで事業的規模(貸家5棟以上、アパート・マンション10室以上、駐車場50台以上)で3年超の期間、貸付事業を行っている方の場合も該当しないものとされています。
以上より、今後は貸付事業を3年超しているかどうかで、貸付事業用の小規模宅地特例の利用の可否が決まってくるので、賃貸物件の建築・購入を検討する場合、早い段階から計画的に行うことが望ましいといえます。
相続開始時期(死亡時期)がいつになるかを予想するのは難しいので、利用の可否は運に左右される部分も大きいとは思いますが、早めの対応が利用の可能性を高めてくれるとだけは言えると思います。
弊所でも、相続対策のお手伝いができるようにシミュレーション等を行っておりますので、ご検討の際はよろしくお願いいたします。
監査部 波多江