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配偶者居住権等に関する税制改正

2019/04/22 税務

春暖の候、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

 

今回のテーマは、配偶者居住権等に関する税制改正です。

相続において、自宅はあるけど現金や預貯金があまりないため、遺産分割の話し合いの結果、自宅を手放し換金せざるを得なかったという話を聞いたことがあるかもしれません。

夫(被相続人)に先立たれた妻(配偶者)が相続により、住み慣れた自宅まで失ってしまうというのでは、悲劇というほかありません。

これまでの民法では、相続後の居住権まで認めていなかったため、相続により結果的に自宅の所有権を失ってしまうと、配偶者は転居を余儀なくされました。

 

しかし、今回の民法改正で配偶者に配偶者居住権という新たな権利が創設され、2019年7月1日より施行されることとなりました。これにより妻は、夫が死亡した後も無償で終身(又は一定期間)、自宅に住み続けることができます。

今回の民法改正に対応するため、税制においても諸々の整備が行われることになりましたが、その一環として、相続税法において配偶者居住権等の税務上の評価方法が明確化されました。

 

配偶者居住権の創設により、自宅の所有権と居住権を区別することができるようになります。つまり、自宅の居住権は妻が、所有権は子が相続するといった、より柔軟な遺産分割の実現が想定されております。

改正民法においてこのような遺産分割が可能になる以上、相続税法において配偶者居住権の財産的価値(評価額)が問題となります。

妻とおいては、無償で住めるとは言え居住権という権利を取得(相続)しているため、その財産的価値を評価する必要があります。

一方、子においては、自宅の所有権を取得(相続)したとはいえ、妻(母)が住み続けている以上、自分の思い通りに使用・処分することができません。利用が制限されるので、配偶者居住権の財産的価値分は自宅の評価額が下がると考えるのが自然な流れでしょう。

 

このような観点から、今回の相続税法改正で「配偶者居住権」「配偶者居住権が設定された建物の所有権」等の税務上の評価方法が明確化されました。

 

 

◇配偶者居住権の評価

 建物の時価ー建物の時価×(残存耐用年数ー存続年数)/残存耐用年数×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率

 

◇配偶者居住権が設定された建物の所有権の評価

 建物の時価ー配偶者居住権の価額

 

◇配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利の評価

 土地等の時価ー土地等の時価×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率

 

◇居住建物の敷地の所有権等の評価

 土地等の時価ー敷地の利用に関する権利の価額

 

(上記計算式の用語・計算の補足)

1.「建物の時価」及び「土地等の時価」は、それぞれ配偶者居住権が設定されていない場合の建物又は土地等の時価。

2.「残存耐用年数」は、居住建物の所得税法に基づいて定められている耐用年数(非事業用)に1.5を乗じて計算した年数から居住建物の築後    

  経過年数を控除した年数。

3.「存続年数」は、以下の(a) または(b)に定める年数

  (a) 配偶者居住権の存続期間が配偶者の終身である場合、配偶者の平均余命年数

  (b) 上記(a)以外の場合、遺産分割協議等により定められた配偶者居住権の存続期間(配偶者の平均余命年数が上限)

4.残存耐用年数又は残存耐用年数から存続年数を控除した年数が零以下となる場合は、「(残存耐用年数-存続年数)/残存耐用年数」は零。

 

なお、配偶者居住権を設定する際、以下にご留意ください。

・居住建物の所有者は、配偶者居住権を取得した配偶者に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う

・配偶者居住権の設定登記の登録免許税は1000分の2

 

また、改正民法上、上記の配偶者居住権に加え、「配偶者のための短期居住権」も創設されました。

これは、配偶者が相続開始時に無償で居住していた場合は、遺産分割終了日と相続開始時から6ヶ月経過日のいずれか遅い日まで、従来どおり居住することができる制度(改正民法1037条1項)ですので、あわせてご確認ください。

 

弊所でも、相続対策のご相談等を承っておりますので、ご検討の際はよろしくお願いいたします。

 

監査部 波多江